Column
Our Roots

 29 May, 2017     Goin'out of my head / Wes Montgomery
 
 GWの前半、MGに誘われお茶の水の複合施設ワテラスの広場で行われた、野外フリーライブ“JAZZ AUDITORIA”を楽しんできた。初夏を思わせる日差しと、ビルの谷間を吹き抜ける心地よい風の中、クラフトビールやワイン片手に一流ミュージシャンの演奏が聴けるというのは、まさに至福の一時だ。伸びやかでダイナミックな歌声のキューバの歌姫ダイメ・アロセナと彼女を支えるピアノトリオの、随所にラテンを感じさせるご機嫌な演奏の後、夕方近くになってギターの渡辺香津美が“JAZZ回帰プロジェクト”と銘打たれたライブをトリオで行った。“Milestones” “Georgia on my mind” “Spain”などのスタンダードナンバー中心の一時間ほどのステージで、軽快なリズムにのって艶やかに響くギターの音色が、都会の夕暮れをいつもとは違う空間に変えていた。
 
 
 ジャズギターが好きだ。Miles Davisのトランペット、Bill Evans、Thelonious Monkのピアノといった特定のアーティストを除いては、Jazzというジャンル中ではギターが一番好きだ。グリッサンドやチョーキングで音階を軽やかに飛び越え、時に温かく時に鋭く奔放なギターサウンドは、脳を思考の枠組みから解き放ち、イマジネーションを刺激してくれる。Jazzの代表格とも言えるサックスは、情緒により強く訴えかけてくるような感覚があり普段はほとんど聴かない。人の声に近い感じがして、日常からの逸脱には向かないのだ。サックスであればアルトやテナーより、むしろ蛇使いを思わせるソプラノのエキセントリックな響きのほうが好きだ。
 
 ジャズギターにハマるきっかけは、20代の後半に聴いたWes Montgomeryだ。ギター雑誌で見かける“ウェス・モンゴメリー(オクターブ)奏法”とは、どんなものなのか関心があったので、たまたま目にした廉価盤のコンピレーションアルバムを、ショッピングモールの特設コーナーか何かで買ったのだと思うが、名盤“A day in the life”からの曲を中心に編集されたそのCDは、予期せぬ革新をOGにもたらした。それまでOGにとって音楽というのは、何か“熱い”“魂を揺さぶる”ものであり、そういった作品を常に求め続けてきた。しかしストリングスやビッグバンド、アレンジのいきとどいたコンボの演奏をバックに、他の楽器とのインプロビゼーションの応酬から生まれる化学反応的なフレーズではなく、誰もがよく知るロックやフォーク、ポップスのヒットチューンのメロディとソロを、じっくりと聴かせるWesの豊かなギターの調べは、そうしたある種の拘りを断ち切り、空中を自由に漂うような感覚をOGに与えてくれた。音楽を聴いてリラックスするということを、Wesの楽曲で初めての体験したのだ。“イージーリスニングジャズ”と呼ばれ“フュージョン”の先駆とされる、Wesが亡くなる前の数年間に発表された一連の作品のポップなサウンドに、ジャズファンからは賛否両論あったことは後になって知るのだが、先入観なしに耳にしたWesのアルバムは疑いなく素晴らしいものであり、それまで知らなかった新たな音世界の扉を開いてくれた。この体験以降OGは新たな“浮遊感”を求めて、多くのギタリストのCDやLPを聴き漁ることとなる。
 お気に入りのWesの楽曲を一曲だけ挙げるのは難しい作業だが、あえて選ぶとすれば1964年のR&Bヒットのカバーで、同名アルバムのタイトルトラックでもある“Goin’ out of my head”は外せないところだ。イージーリスニングジャズ第一作目となったアルバムのオープニングを飾る曲だが、R&Bの王道リズムパターンのベースにピアノの低音のユニゾン、絶妙なリバーブが印象的なシンプルで短い前奏が流れると直ぐに、OGの精神の飛翔は始まる。Wesが紡ぎだす旋律の翼を背に、青空に浮んだホーンが描く雲をすり抜け、ピッコロの風切り音を感じ、眼下に開けたビッグバンドの奏でる雄大な景色を見渡しながら、これから始まる新たな音の世界の広がりを予感したところで2分20秒のフライトは終わる。半世紀前の人たちも、このLPに初めて針を落とした時、同じような感覚を味わったのではないだろうか。
アルバムジャケットでは同シリーズの“California dreaming”が秀逸で、海岸の波打際に佇む金髪の女性を撮った一枚が使われている。裏はゴールデンゲートブリッジを臨む場所から撮影されたサンフランシスコの遠景だ。CDを持っていたがジャケットが欲しくなり、その後たまたま見つけた中古LPを購入した。インテリアとしても楽しめるのがレコードの良いところである。
 
(OG)
 
 



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