Column
Our Roots

 30 January, 2017     Coming Home /Glen Campbell
 
 
 音楽愛好家なら誰しも音の旅路の出発点となる一枚があるはずだ。自らの意思でレコード店へと足を運び購入した最初の一枚。今回のコラムではそんな初めて買ったレコードの話をしようと思う。OGの最初の一枚は実は音楽ではなく、読売巨人軍の王貞治が1974シーズンに達成した三冠王の記念レコードだ。節目となる試合のラジオの実況中継が録音されたLPで、付録に一本足打法で静止した瞬間を捉えた大きな全身像のポスターがついていた。ビデオがない当時、ポスターを眺めながらレコードの実況を聴くと、試合の興奮と芸術の域に達したバッティングフォームから放たれるホームランの美しい放物線が頭の中に甦り、飽きもせず何度となく聴き返したものだ。
 では音楽での最初の一枚は何かというとその1年後、小6の終わりから中1の初めのいずれかの時期に買った、米国のカントリーシンガー、グレン・キャンベルのEP盤“カミングホーム”だ。
 
 “カミングホーム”は日本限定でリリースされたコカコーラのCMソングで、伸びやかな歌声と青空が感じさせる微かな切なさといった風情のメロディーラインが印象的な、ミディアムテンポのアメリカンポップスだ。ストリングスに軽やかなホーンセクションという王道アレンジの、開放的なアメリカ文化をイメージさせる軽快な曲そのものがOGを惹きつけたのだ。
その後グレン・キャンベル自体にはあまり関心を持たぬまま、興味はビートルズへと一直線に向かってゆく。前々回のOGのコラムで初めて組んだバンドの話を書いたが、バンドのサポートメンバーとして参加してくれた社長令嬢しーちゃんが、小6の謝恩会では、OGの卒業生感謝の言葉の前に、“恋は水色”をエレクトーンで演奏した。体育館のステージ袖で“歌謡曲って学校で弾いていいの?”と訊くと、不思議そうな顔をして“歌謡曲じゃないよ、シャンソンだよ”と彼女は答えた。世の中には歌謡曲や演歌、クラシック以外にも様々な音楽があるらしいと明確に意識したのはこの時が最初で、元々西部劇を中心とする映画で培われていたアメリカやヨーロッパへの関心が、程なくOGをレコードショップへと走らせた。
 
 その後は鎖国が解かれた幕末の藩士よろしく一気に洋楽の大海原へとOGは船出し、一生続く音楽の旅が始まるのである。“カミングホーム”はその第一歩を印す記念すべき1枚となった。
(OG)
 
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