Column
Our Roots

 31 December, 2016    (If Paradise Is) Half As Nice /Andy Fairweather Low & The Lowriders
 
 
 
 今年はいつもと違う12月を迎えていた。
年末ライブが開催される12月は、数年前から練習を含め年間で最も(唯一)活発に音楽活動に励んでいる時期なのだが、今年は11/20にライブが終了してしまったので、音楽的刺激がないことに違和感を感じていた。
また今年は仕事面でとても慌ただしく、ここ数年機会が増えていたライブ観戦にあまり行けなかったことから、年末ライブイベントへの欲求を強く感じていたのだった。
そんなことから怒涛の年末ライブ狂騒曲が始まった。
 
 
 
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12月9日(金)Ryan Adams
 
 当日券があることを知りRyan Adamsを観に行った。9.11同時多発テロの1週間前に撮影されたPVが話題となった"New York New York" でブレイクした、ノースカロライナ出身のシンガーソングライターだ。1文字違いのカナダのBryan Adamsと比べ知名度は遥かに劣るが、豪雨でステージ放棄し悪童をイメージづけた2005年フジロックなどで日本でもコアなロックファンには馴染みがあるはずだ。今回1日限りの日本で初めての単独公演にもかかわらず、キャパ2500人程度の新木場STUDIO COASTのチケットが当日も残っていたのは意外だった。
 ステージは誠実で情感溢れる素晴らしい内容だった。余計な演出もなく実直かつ繊細なボーカルとギターアンサンブルは、Ryanのパーソナルな葛藤を曝け出すかのようで胸を打った。アンコールを含めて2時間のパフォーマンスは、年末ライブのオープニングに相応しかった。
 
 
12月12日(月)Alabama Shakes
 
 再びSTUDIO COASTに立ち寄った。2009年に結成されたたアラバマ出身の5人組ロックバンドAlabama Shakes。2012年1stアルバム "Boys& Girls" を発表、2015年の2ndアルバム "Sound & Color" のヒットにより、あっという間にインディーズバンドからグラミー賞4部門を制覇する2010年代を牽引するロックバンドとなった。iPadのCMに使用された効果もあるのか、東京・名古屋・大阪・福岡の5回の公演はほぼ全てSold outだったようだ。
 ステージが始まりリードボーカル&ギターリストの Brittany Howard 女氏登場に唖然とした。相撲レスラーのような巨体の存在感、STUDIO COASTの2階席にまでそのオーラ―を届けていた。圧倒的な声量のシャウトとソウルフルな裏声を駆使し感情の波を会場全体に満たしていく。ガレージロック、サザンロック、コンテンポラリー・R&Bの様々な要素を骨太のリズムで紡いでいくバンドのサウンドが Brittany Howard の強烈なボーカルと一体となり、満員のSTUDIO COASTの観客を魅了した。アンコールを含めて19曲、ロックンロールの次なる未来を見たような気がした。
 
 
12月28日(水)Andy Fairweather Low & The Lowriders
 
 年末最終日に休暇をとり個人的な仕事収めの日、2016年最後を飾るライブを見つけ自分へのご褒美を更にひとつ奮発することにした。人は適切な報酬がないと頑張れないものだ。
 COTTON CLUBは丸の内にある着席180名の小さなライブレストランだ。アグレッシブなライブには不向きだが、アーティストとの距離が近く、年の瀬に酒を飲みながらゆっくりライブ鑑賞するには相応しい。Andy Fairweather Low & The Lowridersのようなビンテージロックを観るには最適だ。
 Andy Fairweather Low は Eric Clapton のサポートギタリストとして有名なUKウェールズ出身のアーティストだ。1966年に Amen Corner のヴォーカリストとしてデビューし、その後セッションミージションとして活動しながらソロ活動を続け、68歳となった現在も良質なアルバムをリリースしている。
 Andyが Lowridersのメンバーを従え何気なく登場する。ウォームアップのようにインストルメンタルを演奏した後、軽快なロックンロール "Dance on" を繰り出す。今年 Eric Clapton と共に来日したベテランセッションミージション Dave Bronze (b,vo)、Henry Spinetti (ds) の強靭なリズムに乗り、Andy のフィンガーピッキングと Nick Pentelow の SAX が心地よいビートを生み出す。バンドのビートは Stones 風グルーヴのナンバー ”La La Music” で更にスケールアップしていく。Andyの枯れたハスキーなボーカルは派手さはないが、飾らずナチュラルで味わい深い。60代のロックミュージシャン達の円熟した演奏はあまりにも素晴らしく、2016年最後のライブとして心に刻まれたのだった。
 
 
 2016年の最後に、20代、40代、60代3世代のアーティスト達の感動的なステージを観て、それぞれのライフステージと音楽に向き合うスタイルの在り方をふと考えた。未来への可能性と若いエネルギーに満ち溢れるAlabama Shakes、変化の中年齢を重ねセンシティブに自分を見つめるRyan Adams、長い人生で蓄積した持ち味を発揮し自然体で音楽を楽しむ Andy Fairweather Low & The Lowriders。我々世代のこれからの生き方のヒントがあるような気がした。
 Andy Fairweather Low & The Lowriders のステージは Amen Corner の69年UKナンバー1ヒットのバラード "(If Paradise Is) Half As Nice" で幕を閉じた。シンプルなラブソングだが、その明るく楽観的なラブソングは、ますます不透明で憎悪が蔓延る世界の中で、普遍的な日常の大切さを感じさせる。2017年は愛に満ち溢れた素敵な年になることを願っている。
 
 
(If Paradise Is) Half As Nice
 
If paradise is half as nice
As heaven that you take me to
Who needs paradise, I'd rather have you
 
They say paradise is up in the stars
But I needn't sigh because it's so far
 
A look from your eyes, a touch of your hand
And I seem to fly to some other land
When you are around my heart always pounds
Just like a brass band
 
If paradise is half as nice
As heaven that you take me to
Who needs paradise, I'd rather have you
 
 ※Lyrics by: Giulio Rapetti (Italian lyrics), Jack Fishman (English lyrics)
 
(MG)


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