Column
Our Roots

 31 December,2015    Gus & Me /Keith Richards
 
 2015年のSWSのトピックといえば、MGのギター購入だろう。エピフォンのセミアコの衝動買いだ。アコギを適当なストロークでかき鳴らすスタイルを結構気に入っていたのだが、これからはあれこれ電気信号の味付けを考えなければならない。毎年恒例の年末ライブでデビューを飾ったこのギター、調子に乗ってエフェクトのゲインを効かせ過ぎて、おかしな歪みを響かせている事には全く気づかなかった。アコギのようにギターまかせというわけにはいかないのだ。これから暫くはアンプとエフェクターと格闘していくことになると思うと少し気が重くなる。
「そもそもどんな音が好きなのか?」と問われると、頭に浮かぶのは Keith Richardsのギターサウンドだ。
 
 2015年10月Keith Richardsが23年振りのソロアルバム "Crosseyed Heart"をリリースした。Keith のギターサウンド全開の新作だ。Steve Jordanのタイトに飛び跳ねるドラムとKeithのギターの絡みは、Stones の心臓 Charlie Watts のドラムとの鉄壁の組み合わせとはまた違った味わいがある。Rolling Stonesの活動の合間をぬって、88年 "Talk is Cheap" 、91年"Live at the Hollywood Palladium" 、92年 "Main Offender" 、そして2015年 "Crosseyed Heart" と27年間で4枚のソロアルバムを世に送り出した。どのアルバムも X-PENSIVE WINOS の仲間と意気投合した、いかにも Keithらしい楽しいアルバムだ。
 
 Keith Richardsのこれまで生きてきた人生は、あまたのRock'n Roll Starの中でも桁違いに荒唐無稽、波瀾万丈だ。多くのエピソードはマスメディアの過剰な脚色があると思っていたが、彼の自伝 ”Life”を読むと、やはりとんでもない人生だ。JazzやRockの多くの偉人達はドラッグに蝕まれ若くして命を落としているが、Keithは「次にドラッグで死ぬロック・スター」10年連続1位に選ばれ「50歳まで生きられないだろう」と言われていた。薬物浄化でドラッグとの縁を断ち切った後も、フィジーで木から落ちて急性脳血腫で命を落としそうになるなど未だにハチャメチャぶりを発揮している。そんな人間が2015年72歳現役で活動している事は奇跡だ。
 
 ギターだけでなく、Keith Richardsの歌も魅力的だ。かつてのハイトーンもイカしてるが、しわがれ声で歌うバラードは、想像もできないような荒波を乗り越えてきた深みが滲み出ている。スカルリングとナイフをいつも身に着け、いくつになっても始末に負えない悪童だが、彼のストーリーからはパートナーや仲間に対するピュアな愛情が時々見え隠れする。本能のまま生きているように見える彼も、一方で家庭的な顔を持っている事を感じる事がある。そのルーツに触れることとなったのは、このクリスマスに手に入れた1冊の絵本だ。
 昨年Keith は娘のTheodora Richardsと” Gus & Me: The Story of My Granddad and My First Guitar”※1 という絵本を創った。幼少期の Keithとガスじいさんとの物語だ。
 「ガスの温かさと愛情に包まれ、そのひょうきんさに1日の大半は体を2つ折りにして笑いどおしだった。当時のロンドンには笑えるようなおかしなことなんて、なかなか見つかるもんじゃなかった。そして、一番重要なことだが、ガスにはいつも<音楽>があった」※2
この絵本にはKeith Richardsの朗読とギター演奏(Steve Jordanも参加)のCDがついていて、「この物語を孫達に読みきかせるのが楽しみだ」などと話している。こんどはKeithがガスじいさんの役目を果たす番だ。
この本の裏表紙にはこう記されている。
 
  An inspiring tribute to music and family
  from a Father-Daughter team
 
 Rolling Stonesは結成50年を超え、オリジナルメンバー3人は確執を乗り越え70歳を過ぎてもバンドをドライブさせている。Keith Richardsは充実したソロアルバムをリリース、その半生を振り返るドキュメンタリー”Under the Influence”が Netflixで配信されるなど、2015年も絶好調だ。 ドキュメンタリーの中で彼は言っている。
 
「人は墓に入るまで成長し続けるのさ」
 
(MG)
 
※1 Pubkished by Little, Brown Books 2014
※2「キース・リチャーズ自伝 ライフ」キース・リチャーズ著 棚橋志行訳 楓書店発行 サンクチュアリ出版 2010


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