Column
Our Roots

 04 March,2015    I spy / シーナ&ロケッツ

 
 我々の世代にとってのRock、Blues、Jazzの先達たちは、年齢で言うと一回りか二回り我々よりも上であって、ここ数年は毎年のように時代を彩った偉大なミュージシャンの訃報が届くのは、自然の摂理であり仕方のないことではある。しかし時として道理に反した、早すぎる予期せぬ悪い知らせが突然訪れる。
 
シーナ&ロケッツのボーカル、シーナが61歳でこの世を去った。その年齢まで、現役で日本のロックシーンを走り続けてきた唯一の女性ロックシンガーだ。声帯にポリープを患い、声こそ低くしわがれ若いころとは変わってしまったものの、毎年恒例、正月のNew Year Rock Festivalでは、昔と同様のスリムな体型に黒いタイトのミニスカートと網タイツで、夫のギターリスト鮎川誠とともに展開するステージは、ストレートで真っ向勝負、Rock'n'roll スピリットは衰えを感じさせず、逆に年齢を重ねるに連れて不必要な商業性を削ぎ落し、先鋭度が増しているようにさえ思えた
 シーナ&ロケッツの特筆すべき点はRock'n'rollの世界では稀有のファミリーバンドであったことだ。FreedomとFamilyは同じFで始まる言葉だが相性は悪く、二つを同時に成り立たたせるのは難しい。Rock'n'roll の重要な構成要素でもあるFreedom, Love, Peace, Passionは、時にFamilyを置き去りにして、それぞれてんでんばらばらの方向へと走り出しWildに空中分解してしまう。そうしたものを全部同じベクトルに括って飛び続けてきたシーナ&ロケッツの存在自体が奇跡のようなものであり、現代のおとぎ話なのだ。
 
 女性は太陽である。太陽のない世界では月も輝くことはない。女のいない世界は男にとって無意味だ。男は闇をまとい、日々同じ軌道を延々とただ回り続けることとなる。鮎川のシーナへの惜別のメッセージ“Queen of Rock’n’roll heart”は、まさにシーナの存在を一言で凝縮している。シーナこそがRock’n’rollファンタジーの中心に位置する太陽でありハートであり、鮎川は太陽の光を受けナイフの如き銀色の煌めきを放つ、熱くCoolな月であった。幸いなことに鮎川にはモデルやミュージシャンとして活躍する三人の娘がいる。シーナ亡きあと、彼女たちが鮎川にまた新たな輝きを与えてくれる事を信じている。シーナ&ロケッツの数ある名曲の中でOGのFavoriteとして、アルバム“Pin-up baby blues”に収録され、シーナがチャーミングに歌いこなす英語詩と、鮎川の浮遊感漂うスライドギターがクセになるロックナンバー“I spy”を紹介して、今回のコラムを終えたいと思う。
 
― RIP (May she rest in peace)―
 
(OG)