Column
Our Roots

 30 July,2014    National Anthem
 
 サッカーW杯ブラジル大会の約一ヶ月に及ぶ熱戦は、ドイツ24年ぶりの優勝で幕を閉じたが、一流選手たちの国民の期待を背負った4年に一度の真剣勝負の他に,W杯には音楽的な楽しみもある。W杯公式テーマソングのことではない。テレビ中継やダイジェストに関連した楽曲でもない。試合前に歌われるNational Anthem、国歌のことである。国歌が流れ歌われる時には、政治的な色彩を帯びた文脈で語られることが多いが、W杯の試合前に歌われるNational Anthemは、そういった政治色抜きで国歌を語れる数少ない機会の一つである。選手、サポーター、そしてTVの前で応援する何百万、何千万、何億の人々の思いのこもった、それぞれの国と国民性を音楽で体現するAnthemのメロディーは素直に胸に沁みる。OGはこれまでに3度W杯を現地で観戦しているが、素晴らしい試合や旅先での思い出深い出来事の数々を、各大陸予選を勝ち抜いた選ばれし出場国のAnthemが彩っている。
 
 まずはイングランドの“God save the queen”から。Rod Stewartの“Get back” (日本未公開のドキュメンタリー映画、“World War U”のサントラの一曲だった。)のイントロはこの曲のピアノソロで始まる。短くも美しい、憂いを帯びたシンプルなメロディーは、Rodの歌声同様心に響く。アンチテーゼともいうべきSex Pistolsの“God save the queen”は、当初は“No future”というタイトルでリリースされる予定だったそうだ。
 美しさで双璧をなすのは今回の優勝国ドイツのAnthem、ラインの流れを思わせる緩やかなテンポのこの曲は“交響曲の父”ハイドンの作曲で、メロディー、構成ともに完璧、ゲルマン魂を支える名曲だ。
 世界で最も有名な国歌の一つ、フランスの“ラ・マルセイエーズ”はアゲアゲ系Anthemの代表選手である。もともとフランス革命時の革命歌だからね、戦い前に歌うにはぴったりなのだ。ご存知の通りBeatlesの“All you need is love”の冒頭に使われている。映画“カサブランカ”でこの曲が歌われる酒場のシーンも、映画史に残る名場面で忘れがたい。
 アゲアゲ・ヨーロッパ系でお勧めなのが、クリスチャーノ・ロナウド率いる、ポルトガル。ウルトラヒーローものの主題歌にも使えそうな前奏に、明るく伸びやかな旋律がつづく。エンディングも前向きだ。力強さと品の良さが絶妙にマッチしている。OGは、C・ロナウド見たさに、2006年ドイツ大会はフランクフルトまで足を運んだ。
 同じラテン系のスペイン国歌“国王行進曲”もノーブルな感じが好きだ。軍隊の礼服に身を包んだ衛兵の隊列が、その姿を誇示するかのようなゆっくりとしっかりとした足取りで進んでいく様が目に浮かぶようだ。この曲は歌詞のない国歌としても知られている。
 イタリアは曲の構成が変化に富んでいて、前半のヴェネツィアでゴンドラに揺られているかのようなリズムを持つ旋律が開放的で心地よく、太陽と青く澄んだ地中海を感じさせる。今大会グループリーグで日本と対戦したギリシャにも同じことが言えて、ワルツのリズムの“自由への賛歌”の旋律の向こうに、白壁の家々と紺碧の海が広がる。ちなみにギリシャ国歌は世界で一番長い国歌で、歌詞が158番まであり、全部演奏すると55分かかるということだ。
 開催国ブラジルは、FIFAの90秒ルールで短縮された国歌の演奏が鳴り終わった後も、選手、サポーター、エスコートキッズまでが、肩を組みアカペラで最後まで歌い続ける熱い姿が話題となった。1994年アメリカ大会のグループリーグ4試合を、サンフランシスコのスタンフォード大学スタジアムで観たが、そのうちの2試合がブラジルの試合だった。明るく心浮き立つようなブラジルらしいこの国歌を、カリフォルニアのまぶしい日差しの中、大学ブラスバンドの生演奏で聴いた。ロマーリオ、ベベットのツートップを擁するブラジルはこの大会を制し、通算4度目のW杯優勝を飾ったが、対カメルーン戦で、追いすがるディフェンダー2人を引き連れたまま、ゴールへ向かって疾走し得点するロマーリオの雄姿は、20年たった今でも、試合前サブグラウンドで繰り返されていた国歌演奏のリハーサルの音色とともに、OGの記憶の中でタイムレスな輝きを放っている。
 
(OG)
 


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