Column
Our Roots


 31 January,2014    I just can’t help believin / Elvis Presley
 
 OGが音楽に夢中になり始めたのが、中一の時であることは間違いない。貯めていたお年玉をはたいて買った、日立のラジカセ“パディスコ”を教室に持ち込み、授業中に隠れてPaul McCartney&Wingsのエアチェックをした記憶があるし、その時のクラス文集の“好きな言葉”の欄に書かれているのは、“明日なき暴走”(言わずと知れたBruce Springsteenの名盤Born to runの邦題)である。
 その頃大学生の従兄からもらった、おさがりのTORIOのステレオセットとTEACのカセットデッキで、OGのオーディオ環境はモノラルからステレオへ、よりHi-fiなサウンドへと飛躍的に向上する。金のない中学生が新しい音楽を高音質で手に入れる最も安上がりな方法が、FMのエアチェックであり、図書館でレコードを借りテープに録音することであった。当時テープに録ったレコードで大人になってLPやCDで買いなおしたものは何枚もあるが、ほとんどはRockというカテゴリーの中で語ることができるものばかりだ。そうしたアルバムの中で他とは趣きの異なる一枚がある。“That’s the way it is” 邦題は“エルビス・オン・ステージVol.1” “KING” Elvis Presleyのライブとそのリハーサル風景を収めたドキュメンタリー映画のサントラ盤だ。
 Rock’n’rollの先駆者として多くのロックミュージシャンに影響を与えたElvisだが、このアルバムは活動を映画からラスベガスを中心としたコンサートに移し、1961年以来遠ざかっていたヒットチャートのTopに8年ぶりに返り咲いた翌年に発表された、バラード中心の円熟期の作品である。LPジャケットの煌びやかなスタッドで飾られた、極端に襟の高い白のジャンプスーツにトレードマークのもみあげは、物まねでよく見るElvis Presleyのイメージそのものだ。
 A面の一曲目“I just can’t help believin’”は、彼の数多いヒット曲と比べると決して有名ではない。しかしブラスセクションを従え、ライブでミディアムテンポのポップバラードを歌うElvisの、抑制の利いたそれでいて深く伸びやかな歌声は、木目のスピーカーキャビネットから流れ出る音の向こうにある、こことは違うまだ見ぬ世界に思いを馳せた中学時代の、ある種甘美で切ないような感覚を、OGに甦らせてくれる。それはこれからやって来る未来への楽観的な希望と背中合わせの漠然とした不安、過ぎ去ってゆく少年期への郷愁といったようなものが混ざり合った、思春期特有の感覚だったのだろうと思う。
 何を歌わせてもElvisは上手い。別格だ。サウンドや楽曲、アレンジの良さを超えた、歌だけで人を惹きつけることのできるシンガーは少ない。思い浮かぶのはElvisとAretha Franklinといったところか。彼らは歌声そのものが胸に沁みる。ElvisはOGが中三の時42歳で亡くなったが、OGの心には、白いジャンプスーツのElvisが、時代の空気とともに今もそのままの姿で生き続けているのである。
(OG)