Column
Our Roots


 27 July,2013    Gimme all your lovin / ZZ TOP
 New Yorkの冬は厳しい。1987年の12月、マンハッタンにある友人のワンルームアパートメントに居候させてもらっていたOGは、寒さに耐えかね、長距離バス、グレイハウンドを乗り継ぎ、太陽を求め三日かけてアメリカ最南端、フロリダはキーウェストを目指すこととなる。OGが担当する今回のコラム、テーマは前回に続いて“ライブが男だらけ”のバンドです。
 
 
 
 一週間滞在したキーウェストのユースホステルには、Tetsuyaさんという日本人がヘルパーとして働いていた。年の頃は30前後、痩身中背、Tシャツに短パン、ビーチサンダル、フロリダの太陽に焼かれた肌に薄い口髭、長く伸ばした黒い髪を後ろで束ねたその姿は東南アジアかインドの仙人といった趣きだった。バスボーイや皿洗いをしながら世界各地を旅していたRock&Drugを愛するTetsuya氏とは、ヤシの木に囲まれたホステルの中庭で滞在中よく話をした。旅先での経験談や音楽の話、UpperやDownerといったDrugに関する基礎知識も教わった。
 
 その時の話題のひとつが今回のテーマ、ZZ TOPだ。
以下Tetsuya氏と若き日のOGとの会話
“アメリカでの特にハードロックやヘビーメタル系のコンサートの観客は、Upper(コカインなどの興奮系の薬物)をきめたTeenagerが多くて、しょっちゅう喧嘩が始まる。そういったライブではボディチェックが厳しいんだ。”
“カメラやテープレコーダーですか?”
“いや、銃とかナイフとかさ。ZZ TOPの客の8割以上は男で、女は2割程度だ。”
“2割…少ないですよね”
“ところがその2割の女が最高なんだよ。その女たちをめぐって男どもが争いを始めるというわけさ。”
 
 ハードなBoogieで名を馳せたTexasのスリーピース・バンドZZ TOPの1983年の“Eliminator”は、“革新的”なアルバムだ。一言で言えば“Boogieとテクノロジーの奇跡の融合”であり、シーケンサーを用いた四つ打ちのリズムの上でBilly Gibbonsの分厚いギターのリフとシンプルだが骨太でブルージーなソロがうねりまくる。まるでTexan Discoサウンドだ。ノレるギターソロという切り口では、Gibbonsが一番だろう。リフに加えてソロでもGrooveを加速できるギタリストは稀有である。暴れ牛にまたがったロデオのカウボーイのように、聴く者のハートをがっちり捉えて離さない。耳からなだれ込むアメ車のエンジン音を思わせる音の洪水は、遠心力を加えながら脳幹をグイグイ揺さぶる。パワフルで豪快、かつ爽快なGrooveだ!BoogieもDiscoも大好きなOGがハマらないはずがない。このアルバムには冒頭をかざる“Gimme all your lovin’”をはじめ“Sharp dressed man” “Legs”など80年代以降の彼らの代表曲が収録されていて、重低音を効かせたカーステレオを大音量で鳴らしながらドライブすれば、アクセルの踏み込みはいつもの20〜30%増し(場合によっては50%も…)、ぶっ飛び感200%増しになること請け合いである。
 
 トレードマークの長いあご鬚の間から聞こえるくぐもった歌声、サングラスにテンガロンハット、PVにはお約束のブロンドやブルネットの美女たち。ダンディだが時にそろってユーモラスにステップを踏み、ギターをくるくる回転させエンターテイメントの精神も忘れない。アメリカ南部の陽気で力強い男臭さをこれほど体現するバンドは他にない。ダイヤモンドディスク(1000万枚以上の売り上げ)に認定されているこのアルバムが、長距離トラックのドライバーの間で人気となり、LPよりテープのほうが売れたというのも納得できる話である。
 
(OG)