Column
Our Roots


 29 September,2012    Try a little tenderness / Otis Redding
 
 高校を卒業してしばらくの間、一番好きなシンガーは誰かと訊かれると、“オーティス・レディング”と答えていた時期がある。にもかかわらずOtisをどうやって知ったのかについての記憶が定かではない。
まずStonesがカバーしたThat`s how strong my love isが心を捉え、さらにその元曲が飛行機事故ですでに他界している伝説のR&Bシンガー(当時日本ではまだソウルシンガーという呼び方しかなかったと思うが)Otis Reddingのものであることを知り、何かの折にその桁外れにパワフルでエモーショナルな歌声に触れた瞬間、世界はそれまでとは違う景色になっていた、という流れが推測される。なぜそれほどの劇的な出来事のはずなのに記憶が曖昧かというと、言葉を覚え始めた赤ん坊の如く、ポップカルチャーやサブカルチャーを吸収していったティーンエイジのOGには、未知なる刺激的な音楽や映画との出会いは日常の出来事であり、時にそうしたアーティストや楽曲との出会いは、同じ時期にいくつか同時進行、且つ絡み合って起こっていたりもするので、その感動は心に残っていても事の詳細は憶えていなかったりするのである。
 
 Otisの曲を一曲選ぶなら、やはりTry a little tendernessだろう。これほど心の奥底にダイレクトに届いて深く沁みわたり、情感を揺さぶる曲を他に探すのは難しい。その当時は英語の歌詞をよくは理解していなかったが、かえってそのほうが想像で分からない部分を補い感動は増幅されるのかもしれない。音楽にとって言葉は時には邪魔になることもあるものだ。
今あらためてこの曲を分析してみると、アレンジや構成にゴスペルの影響が感じられる。静かな始まりから、印象的なオルガンのオブリガードとともに徐々に盛り上がり、終盤のカタルシスへと突き進んでゆく。弱き者に差し込む一筋の光を連想させる歌詞とOtisの歌声は、バプティスト教会の牧師を思い起こさせ、それがある種宗教的な恍惚にも似た感動へと我々を導く。
ほぼ同じ時期に耳にした上田正樹&South to SouthによるLIVEバージョンも素晴らしかった。Otisのほぼ忠実なコピーにも拘らず、そこに“浪花ソウル”とでもいうべき熱い思いが加わり、実際には見ることの叶わないOtisの姿をそこに重ね合わせて、FMで流れる彼らのTry a little tendernessを聴いていたように思う。清志郎のステージングにも影響を与えたOtisと彼のTry a little tenderness。
音楽の持つ力の大きさを体感させてくれた偉大なる一曲である。      
(OG)
 


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