Column
Our Roots

 19 November, 2017    ゴロワーズを吸ったことがあるかい / かまやつひろし
 
「 ゴロワーズという煙草を吸ったことがあるかい? そうさジャン・ギャバンがシネマの中で吸っていたやつさ よれよれのレインコートの襟を立てて短くなるまで奴は吸うのさ 短くなるまで吸わなけりゃだめさ 短くなるまで吸えば吸うほど 君はサンジェルマン通りの近くを歩いているだろう 」  
 
“ゴロワーズを吸ったことがあるかい”という歌を聴いたことがあるかい?そうさムッシュ・かまやつが“我が良き友よ”のB面で歌っていたやつさ。タワー・オブ・パワーのホーンセクションをバックに奴は歌うのさ。レコードが擦り減るまで聴かなけりゃだめさ。ファンキーなトーキングブルースを聴けば聴くほど、君は時空の隔たりを越えサンジェルマン通りの近くを歩いているだろう。
 中学生になって間もない春、同い年の従兄弟が買ってきたシングル盤のA面は、かまやつと親交のあった吉田拓郎作詞作曲の、当時でさえ絶滅危惧種とされていたバンカラ学生を歌った、我々の世代の誰もが知る大ヒット曲であるが、“下駄を鳴らして奴がくる、腰に手ぬぐいぶら提げ”た、こてこてのジャパニーズフォークの裏の、誰も知らないB面に刻まれた真逆の世界に、OGも従兄弟も夢中になった。“ゴロワーズってなんだ?”“たばこの名前みたいだね”“サンジェルマン通りってどこ?”“日本じゃないよね”
 
 「 ゴロワーズという煙草を吸ったことがあるかい? 一口吸えば君はパリにひとっ飛び シャンゼリーゼでマドモワゼルに飛び乗って そうだよエッフェル塔と背比べ ちょっとエトワールのほうを向いてごらん ナポレオンが手を振ってるぜ マリー・アントワネットもシトロエンの馬車の上に立ちあがって ワインはいかがと招いてる 」
 
 その頃触れることができる外国文化といえば、アメリカの映画、音楽が中心であり、シャンソン、アラン・ドロン、花の都、ファッションショーなどの言葉は耳にしてはいても、OGと従兄弟にとってそれは事実上初めてのフランス体験であった。“ナンダコレハ…カッコいいじゃないか!”
 中学生のOGの心を捉えたのは主に1,2番の歌詞であったが、年月を経た今になるとむしろ3,4番の歌詞に深く共感する。
 
 「 君はたとえそれがすごく小さな事でも 何かに凝ったり狂ったりしたことがあるかい? たとえばそれがミック・ジャガーやアンティックの時計でも どこかの安いバーボンのウィスキーでも そうさ何かに凝らなくてはだめだ 狂ったように凝れば凝るほど 君は一人の人間として幸せな道を 歩いているだろう
 
 君はある時何を見ても何をやっても 何事にも感激しなくなった自分に気がつくだろう そうさ君は無駄に年をとりすぎたのさ できることなら一生赤ん坊でいたかったと思うだろう そうさすべてのものが珍しく 何を見ても何をやってもうれしいのさ そんなふうな赤ん坊を 君はうらやましく思うだろう 」
 
 発売当時、世間では話題にも上らなかった、Tower of PowerのGreg Adams編曲のこの曲は1990年代初頭のアシッド・ジャズブームで再評価され、かまやつとニューエイジのベースヒーローKen Ken、10代のギタリスト山岸龍之介のユニット Life Is Grooveでの近年のライブでも、セットリストに加えられている。GSブームの多くのバンドが楽曲を作詞家、作曲家に任せる中、自ら作詞、作曲までこなしたかまやつひろしは、日本で最初のロックであると評する人もいる。今年の3月に亡くなったムッシュ本人が好きだった煙草の銘柄も、生前最後のテレビ出演の際エレキギターでクールに弾き語ったのも、“ゴロワーズ”であった。名曲は決して埋もれない。いつか必ず誰かの目にとまり、その輝きは時を経ても褪せることはないのだ。
(OG)


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