Column
Our Roots

 31 October, 2016    Live at the Hollywood Bowl / The Beatles
 
 先週末 "The Beatles: Eight Days A Week―The Touring Years" をようやく見る事ができた。
 “Let it be” 以来46年ぶり、『ダ・ヴィンチ・コード』(The Da Vinci Code)のRon Howard監督による Beatles のオフィシャルフィルムだ。バンド結成からアメリカ上陸、66年の Candlestick Park のラストライブまでの期間を中心に(といっても1969年Rooftop Sessionまで一応登場する)、特に当時の米国の歴史的背景を交えながらBeatlesの足跡がトレースされている。Beatlesがライブ活動をしていたのは1962年デビューから数えると僅か4年間。凄まじい勢いで世界中を駆け抜け、ライブの合間もろくに休まず6枚のアルバムをレコーディングし、過熱したファンと(Johnの失言などによる)反対運動から自由を奪われ疲弊していったことが映画の中で描かれている。Beatlesがライブ活動を停止した1966年は絶頂期だったBod Dylanがバイク事故で隠遁生活に入った時期と偶然に重なっているのも興味深い。どんな天才アーティスでもいつまでもトップギア・アクセル全開で走り続けることはできないという事か?
 
 同時上映された "Shea Stadium Live" には本編以上に興奮させられた。同ライブは学生時代に「シェアスタジアムコンサート」(今はシェイスタジアムと表記)としてテレビで観た記憶はあるが、クリアになった映像とリマスターサウンドはBeatlesのライブバンドとしてのすごさを改めて体感できる。モニタースピーカーもなく貧弱なPA機器ながらスタジアムの観客を圧倒する歌と演奏は、彼らがどれだけ優れたライブバンドだったか再認識させられた。
 
 映画と同時にBeatles唯一の公式ライブである“Live at the Hollywood Bowl”がリリースされた。1977年に一度リリースされた音源がリマスターされ4曲のボーナストラックを追加し新たな Beatles アルバムとして世に送り出された。
 このLPがリリースされた中学生時代、MGは Beatles に夢中で、野球部だった友人A島と教室でBeatlesの話ばかりしていた。A島はPaul派自分はJohn派に分かれ勝手な Beatles 曲のランキングをつけあったりして騒いでいた。“Live at the Hollywood Bowl”のLPレコードは、恐らく A島から借りてカセットテープにダビングして聴いていたのではないかと思う。正直全く期待はずれだった。音質は妙にこもっていてベースの音がやたらでかく、演奏は荒々しく雑然としている気がした。Johnの声は図太く、スタジオアルバムと別人のように聞こえた。当時はJohnとPaulが同質の声で奇麗なハモりで混ざり合うBeatlesしか理解できなかったのだろう。特にJohnの低音部のパートしかよく聞こえない ”She loves you”はまったく別の曲に思えた。
 
 39年ぶりに新しく蘇ったこのライブを聴いてみると、当時の印象と全く異なりその素晴らしさに愕然とした。”Twist & Shout” のJohnの渾身のシャウトからShe's a womanの粘るギターカッティング・Paulのブルージーなボーカル、オープニングの2曲から惹き込まれた。そして3曲目の “Dizzy miss Lizzy” はイントロのギターの後、RingoのドラムとPaulのベース、Johnのギターが絶妙のタイミングで爆発する瞬間がとてもスリリングだ。Ringoは観客の絶叫で演奏の音は聞こえず、メンバーの動きをたよりにタイミングを合わせていたという。PaulとRingoの強靭なリズムにJohnのリズムギターがBeatを刻み、縦横無尽にGeorgeのギターが暴れまくる骨太の Rock'N'Roll。Stones、Kinks、Beach Boysも同時代のライブアルバムをリリースしているが、Beatlesのライブパフォーマンスは別格だ。若さと勢いでリズムが走りボーカルがふらついたりする事もなく、Beatlesは抜群に安定したスケールの大きな演奏を聞かせている。1日8時間演奏することもあったというハンブルグ時代の経験を糧に圧倒的な才能を開花させた、当時最強のRockバンドだったのかもしれない。2016年、"The Beatles: Eight Days A Week―The Touring Years ." “Live at the Hollywood Bowl”により、改めてBeatlesのライブバンドとしての魅力を再認識することができた。
 
 
 週末の映画館は若い世代も少なからず来ていた。「Beatlesって凄かったんだね」となりに座っていたカップルが驚いたように話している。1962年デビューのBeatlesが世代を超えて愛されるているのは、自分の事のようにうれしかった。
 
(MG)


| Prev | Index | Next |


| Home | Profile | Collection | Column | リンク集 |