Column
Our Roots

 30 September,2014    Round midnight / Thelonious Monk
 
 音楽の力は偉大だ。音楽一つで部屋の空気は一変する。OGにとって音楽のない部屋は“死んだ”部屋であり、音楽のないドライヴは単なる移動である。音楽がかかっていないと眠ることさえもできない。まさに“No music, No life”である。時に音楽はタイムマシーンの役割も果たす。曲を聴いた瞬間に、その曲にまつわる想い出や当時の情景が鮮やかに甦る。音楽は時空をも軽々と飛び越える。それなら我々の宇宙とは別の宇宙を垣間見たくなったらどうすればいいか?Thelonious Monkのピアノソロアルバム“Thelonious himself”を聴くことをお勧めする。
 
 セロニアス・モンクを初めて聴いたのは、マイルスを聴き始めたのと同じ頃、大学時代だ。明確な日時は特定できないが、その時の印象は鮮明に残っている。それはRockに初めて接した時に経験した、想定外のものに触れるあの感覚―“ナンナンダコレハ”―であった。
 コキコキとしたメロディと、一瞬躊躇するかのような不思議なタイミングで紡がれる聴いたこともないコードの響き。大柄なMonkの指先が、鍵盤の上を慎重にそれでいて大胆に歩みを進めるごとに、そこに詩が、ユーモアが現れる。静かなスリルの中ふと見上げると、頭上に見たことのない宇宙が広がっているのに気づく。他と比べる術のない独特の光を放つ音の一つ一つが遠近感の不確かな中空に輝き、見知らぬ惑星の表面を覆った氷の上に、不協和音が美しいひび割れを刻んでゆく。LP盤でいうとB面の1曲目“I should care”から2曲目の“Round midnight”にかけ、月がいざなう秋の夜に、OGはそうやって異次元の宇宙を旅するのだ。
(OG)